東京地方裁判所 昭和55年(特わ)143号 判決 1980年8月06日
本店所在地
東京都立川市曙町二丁目一三番一〇号
名称
衛門商事株式会社
(右代表者代表取締役 土方衛)
本籍
東京都立川市錦町二丁目八四番地
住居
同都同市柴崎町三丁目一一番九号
会社役員
土方衛
昭和一一年四月一二日生
右の者らに対する各法人税法違反被告事件について、当裁判所は、検察官寺西輝泰出席のうえ審理し、次のとおり判決する。
主文
被告人衛門商事株式会社を罰金一、〇〇〇万円に、被告人土方衛を懲役一年にそれぞれ処する。
被告人土方衛に対し、この裁判確定の日から三年間その刑の執行を猶予する。
理由
(罪となるべき事実)
被告人衛門商事株式会社(以下「被告会社」という。)は、東京都立川市曙町二丁目一三番一〇号に本店を置き、バー、クラブ等の経営を目的とする資本金三五〇万円の株式会社であり、被告人土方衛は、被告会社の代表取締役として、同会社の業務全般を統括しているものであるが、被告人土方は、被告会社の業務に関し、法人税を免れようと企て、売上の一部を除外して簿外預金を設定するなどの方法により所得を秘匿したうえ、
第一、昭和五一年一月一日から同年一二月三一日までの事業年度における被告会社の実際所得金額が一、四四九万一、二三〇円(別紙一修正貸借対照表参照)あったのにかかわらず、同五二年二月二八日、東京都立川市高松町二丁目二六番一二号所在の所轄立川税務署において、同税務署長に対し、その所得金額が六六万二、八九六円でこれに対する法人税額が一四万三、一〇〇円である旨の虚偽の法人税確定申告書(昭和五五年押第一〇〇九号の7)を提出し、もって不正の行為により、同会社の右事業年度における正規の法人税額四九一万四、一〇〇円(別紙四税額計算書参照)と右申告税額との差額四七七万一、〇〇〇円を免れ、
第二、昭和五二年一月一日から同年一二月三一日までの事業年度における被告会社の実際所得金額が五、一四一万九、五九二円(別紙二修正貸借対照表参照)あったのにかかわらず、同五三年二月二八日、前記立川税務署において、同税務署長に対し、その所得金額が二、四六九万三、七四七円でこれに対する法人税額が八九四万四、四〇〇円である旨の虚偽の法人税確定申告書(前同号の6)を提出し、もって不正の行為により、同会社の右事業年度における正規の法人税額一、九六三万四、八〇〇円(別紙四税額計算書参照)と右申告税額との差額一、〇六九万〇、四〇〇円を免れ、
第三、昭和五三年一月一日から同年一二月三一日までの事業年度における被告会社の実際所得金額が六、九九九万三、〇〇二円(別紙三修正貸借対照表参照)あったのにかかわらず、同五四年二月二八日、前記立川税務署において、同税務署長に対し、その所得金額が一、八五二万五、〇五一円でこれに対する法人税額が六四九万四六〇〇円である旨の虚偽の法人税確定申告書(前同号の5)を提出し、もって不正の行為により、同会社の右事業年度における正規の法人税額二、七〇八万一、八〇〇円(別紙四税額計算書参照)と右申告税額との差額二、〇五八万七、二〇〇円を免れ
たものである。
(証拠の標目)
一、被告人土方衛の当公判廷における供述及び検察官に対する供述調書二通
一、収税官吏の被告人土方衛に対する質問てん末書三通
一、収税官吏の川口亮に対する質問てん末書
一、収税官吏作成の現金、普通預金、定期積金、貸付信託、未収入金、未払金、役員賞与、金銭信託、株式、無尽、交際費損金不算入額、貸付金及び預り金に関する各調査書各一通
一、収税官吏作成の定期預金、未収利息、仮払源泉所得税、欠損金当期控除額、未払源泉所得税、未納事業税及び代表者勘定に関する各報告書各一通
一、立川税務署長作成の証明書
一、登記官作成の登記簿謄本
一、押収してある総勘定元帳四綴(昭和五五年押第一〇〇九号の1ないし4)及び法人税確定申告書四袋(同号の5ないし8)
(法令の適用)
被告人土方衛の判示各所為は、いずれも法人税法一五九条一項に該当するので、所定刑中いずれも懲役刑を選択し、以上は刑法四五条前段の併合罪であるから、同法四七条本文、一〇条により犯情の最も重い判示第三の罪の刑に法定の加重をした刑期の範囲内で同被告人を懲役一年に処し、情状により同法二五条一項を適用して、この裁判確定の日から三年間右刑の執行を猶予する。さらに、被告人土方衛の判示各所為は被告会社の業務に関してなされたものであるから、被告会社については、法人税法一六四条一項により判示各事実につき同法一五九条一項の罰金刑に処せられるべきところ、以上は刑法四五条前段の併合罪であるから、同法四八条二項により各罪所定の罰金額を合算した範囲内で被告会社を罰金一、〇〇〇万円に処することとする。
(量刑の理由)
本件は、立川市内で大々的にクラブ等を経営する被告会社において、その代表取締役である被告人土方が、被告会社の売上の一部を除外して簿外預金を設定したうえ、三年間で合計約三、六〇〇万円の法人税を免れたというものであるが、昭和四八年三月ころから売上除外を行い、売上の伸長とともに次第に売上除外の回数を増すなど犯行の態様は計画的といえる。また被告人土方は、脱税の動機として、自分が残る右眼についても失明の危機にさらされているため、将来に対する不安から資産を蓄積したかった旨供述しているところ、同被告人の病状及び将来に対する不安感については、それなりに理解することができるのであるが、将来への備えとしては他にいくらでも正当な方法があるのであって、これらの事情も同被告人の本件脱税行為を正当化する理由にはなりえない。しかしながら、本件のほ脱率は、約七〇パーセントとこの種事犯としては比較的低いこと、被告人土方には、本件発覚後反省の態度がみられ、被告会社において、各年度分につき修正申告に応じたうえ、本税、重加算税等を納付していることなどの有利な事情も認められ、その他被告人土方の病状等一切の事情を考慮し、主文のとおり量刑する。
よって、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 小瀬保郎 裁判官 久保眞人 裁判官 川口政明)
別紙一 修正貸借対照表
衛門商事株式会社
昭和51年12月31日
<省略>
<省略>
別紙二 修正貸借対照表
衛門商事株式会社
昭和52年12月31日
<省略>
<省略>
別紙三 修正貸借対照表
衛門商事株式会社
昭和53年12月31日
<省略>
<省略>
別紙四 税額計算書
<省略>